なぜ音読力は重要か
音読力も黙読力も重要なり(1) 02・11・21記
音読力も、黙読力も、重要なり
わたしはこのホームページでは殆んどが音読力(表現よみ力)高めにつ
いて書いています。だからと言って、黙読力を軽視しているわけではありま
せん。黙読力は音読力と同等に重要です。わたしたちの日常生活では黙読が
殆んどですから、黙読力高めの指導はとても重要です。
黙読力高めの指導は、黙読そのものを直接に指導する方法もあります
が、音読力を高めることによって水が流れるようにしぜんに黙読力が高まる
という側面もありす。音声に出しての音声解釈で作� �世界を楽しむことを継
続していくうちに、黙って目だけで活字を読んでいるときも素敵な音声を脳
中の黙って浮かべて情感豊かに読むようになります。これは高次の黙読力で
す。
本稿では、第一部・「音読力の重要なわけ」、第二部・「黙読力の重要
なわけ」の、二つに分けて書くことにします。
第一部 音読力が重要なわけ
黙読と音読とでは、どちらがより重要かという問いは愚問です。どちら
も重要なのです。時と場に応じて、両方を自在に、上手に使いこなせるよう
でなければなりません。
初めに「なぜ音読力が重要か」について書きます。音読のメリットは、
どこにあるのでしょうか。
文章理解の程度が分� �る
黙読だけでは、授業(話し合い)は成立しません。文章を声に出すこと
で、黙読では見えなかったものが見えてきます。音読することで、立ち上
がってくるものがあります。児童の理解の程度、読みの浅さや深さ、つまず
き、どう受け取っているか、指導の手立てをどう立てるか、などが分かって
きます。音読させてみると、児童達の読みの力の診断や治療、指導上の重要
な手がかりが得られます。
児童がどれだけ文章内容を把握しているか。それを音読の実態で調べます。
医療プロトコルの定義は何ですか?
○漢字が読めるか。
○つっかえないで読めるか。
○語群のまとまりとして読めるか。
○おかしな読み癖がないか。
○文内構造(意味内容の切れ続き)の区切りをはっきりさせて読めるか。
○地の文と会話文とを区別して読めるか。
○会話文は人物に気持ちになって読めるか。
○強調すべきところ、声量の変化、遅速の変化、転調の変化、間をあける
べきところなど、意識して読んでいるか。
○つまり、内容を理解して読んでいるか、そら読みをしていないか。
○場面の雰囲気をつかんで情感豊かに読んでいるか。
○張りのある声で、歯切れよい発音で読んでいるか。
このように文章 内容の理解の程度(実態)を把握するために音読させた
り、指導の手がかりを得るために音読させたりします。また、「何行目から
何行目まで音読してごらん。ここの文章部分から、人物Aの行動意図(理
由)が読み取れます。どんなことが分かってきますか。いま読んだ文章部分
に書かれています。どうして、どんなで、こんな行動をしたのでしょう。相
手にどうしてほしいと思っているのでしょうか。どの文章部分からそれがわ
かりますか。」などと文章個所を指定して音読させ、音読で意識化させて文
章内容を精査、探究させ、そこから話し合いが進展していきます。
「では、どんな声の出し方をすると、いま話し合ったことが音声にあら
われるでしょうか。実際に声に出して読んでみましょう。 」と誘いかけま
す。あらわれでた読み声をもっとよい表現にするために、あらわれでた読み
声を手がかりにして、それを更に解釈深めの話し合いの材料にして学習を進
めていきます。
能力の低い子には、教師(上手な音読児童)の連れ読み、模倣読みをさ
せたりもします。文字を声に出して満足に読めもしないのに、何のより高度
な解釈深めの授業などあり得ましょうか。案外、これが多いんですよ。あな
たは、これと違いますよね。
音読するとは解釈深めをすることだ
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みんなに聞こえる声で、つっかえないで、すらすらと、はっきり読めれ
ばよいだけではありません。音読指導では、もっと教えなければならないこ
とがあります。音読にはメリットがたくさんあります。
音読と読解とは緊密な関係があります。音読させると、児童がどれだけ
文章内容を理解しているか、理解の程度が把握できます。文章を音声表現さ
せて、解釈(理解)した文章内容を、その筋道(論理)にそって、意味内容
が立ち上がるように工夫しながら音声表現させます。
みなさんは、音読した時と黙読した時とでは、どちらが神経を使います
か。音読の方が神経を使うでしょう。文章を声にすると、黙読と違っ て緻密
な思考が要求されます。上手に音読しようとすると、黙読では使わなかった
余計な神経を使います。黙読と音読では、神経の使い方、精神的な疲労が
ずっと違います。音読すると、黙読では読み落としていた内容が浮かび上
がってきます。さらに読み深めが出てきます。音声表現することで、より深
い解釈行為があらわれ出てきます。
音声表現するには、文章内容が十分に理解できていなければなりませ
ん。理解できていない場合には、とぎれとぎれのつっかえ読みになったり、
へんなところで区切って読んだり、すらすら読めたとしても、気持ち(思
い)の入らない上っ面の読み声、文字の表面をずらずらとなぞって流れるだ
けの棒読みになったりします。自信がないので、読み声は低く� �んで、小声
になり、発音不明瞭のもぐもぐ読み声になります。教室いっぱいにりんりん
と響く自信に満ちた読み声にはとうていなりません。
「音読は音声解釈することだ」と言われます。「音声解釈」とは、「文
章内容を音声で表現すると、文章内容の解釈(理解)深めが要求される。音
声で解釈深めが行われる。」ということです。音声表現して、あらわれ出た
読み声に不満があれば、「ここはこんな意味内容だから、もっと違った、こ
んな感じ(雰囲気、情感)の音声表現にするべきだ」と修正した音声表現が
求められます。更にあらわれ出た読み声にも、これは満足、これは不満と耳
で判断し、不満の場合はさらなる音声表現を求めていきます。と言うこと
は、まさに「音声(で)解釈」し� ��いることになるわけです。
音読すると、集中して内容把握ができる
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黙読していると、うつらうつらと眠くなることがあります。春眠なんと
か、ぽかぽかいい陽気の時は、とくにそうです。そんな時、声に出して読む
と、しだいに眠気から覚め、意識がはっきりし、集中して本を読み出すこと
ができます。
紙幣の枚数を数えるとき、黙って数えるよりは声に出して数えた方が確
実に数えられます。電卓を使って計算するとき、黙って数字のキーを打つよ
り、打とうとする数字を声に出しつつキーを打ったほうが間違えずにキーを
押し、より確実に計算ができます。
電車の運転手(車掌)さんは発車するとき「前方よーし」と声に出し、
指で進行方向を指示します。指差し確認と言います。わざと声に 出して自分
の行動を統制し、自己確認をしながら安全運転をしようとているのです。言
葉には行動を調整(規制、統制)するはたらきがあり、頭の中だけの言葉よ
りは、声に出すほうが、その効果がいっそう発揮されるのです。
声に出して本を読むと、意識が集中して文章内容の把握ができるように
なります。音読した方が黙読よりも意識が集中し、確実に、内容把握ができ
るようになります。音読は黙読に比べて強制力を発揮して内容把握ができる
効果があります。音読は黙読と比べて神経をたくさん使います。
音読すると、高次の黙読力が作られる
音読は高次な黙読を作るのによい方法です。音読学習を積み重ねていく
ことで、しだいに表象性や情感性や論理性の豊かな音声表現ができるように
なります。音読練習を繰り返していく中で、文章内容にピッタリした音(お
ん)を素早くの脳中に浮かべて読める技ができていきます。
国語授業でどの文章部分はどう音声表現すればよいか、実際に声に出し
て練習します。家庭でも父母の協力を得て(音読カードに父母が家庭練習し
た確認や評価のしるしをつける)繰り返し音読練習をさせます。こうして音
読練習を重ねることで、児童達は黙って読むときにも、自分が実際に音読し
ていた時に出していたであろう豊かな音(おん)を、生き生きした心声( 内
耳音)として、脳中に浮かべて読めるようになっていきます。
繰り返しての音読練習を経過したあと、その効果として、高次の黙読能
力が形成されます。「高次の黙読」とは、繰り返しての音読練習の結果とし
て形成される第二次の「黙読時における鍛えた音読・訓練された音読の能
力」のことです。
児童達に高次の黙読の能力を身につけるには、声に出しての音読練習を
繰り返して指導していきます。声に出しての表情豊かな読み声が、やがて心
内化し、黙読しているときでも表情豊かな音(おん)を黙って脳中に瞬時に
浮かべて読めるような肉体化、身体化ができていきます。
音読すると、言語感覚が育つ
音読練習を繰り返すと、物語世界にどっぷ� ��と入り、登場人物になった
つもりで物語世界を行動できるようになります。この先どうなるだろうかと
わくわく、どきどきしながら事件(事態)の進展を音声でつかみ、音声で彫
琢し、場面の表象を音声の響きで楽しんで読み進めるようになります。
これに対して黙読は知識を得るために読むのが殆んどです。黙読は、何
が書かれているか、何を伝えているかを知ることで読みは終わりとなるのが
ふつうです。つまり、音読は物語的で、黙読はデータベース的だと言えま
す。
音読すると、ことばの組み合わせのすばらしさや悪さ、語えらび文つく
りのつながり具合(リズム)のよさや悪さに気づきます。すばらしい文章部
分は声に出して心ゆくばかりに思いを込めて読んでみたくなります。素 敵な
ことばの組み合わせの巧みさを、音声で表現し、ある種の感慨に浸りつつ、
楽しんで読みたくなります。日本語による表現美(言語美、言語感覚)を音
声でからだに響かせて体感しようとします。こうして音声で言語美を味わ
い、美しい文章への憧れを抱く人間になっていきます。
音読すると、言語表現能力が育つ
小学校の教科書の文章は短いですから、同じ文章個所を繰り返し音読練
習していると、いつのまにか暗唱してしまいます。暗記強制ではなくて、解
釈深めの音読練習や情感(意味内容)を音声にのせる音読練習を繰り返して
いると、いつのまにか暗誦に近い状態まで自分の身体に刷り込み、血肉化さ
せてしまいます。
音読を繰り返すことで知らず知らずのうちに文章の中にある語句、言い
回し、文体、文章構成の進め方などが自分のものとして感覚的に身体に刷り
込んでしまいますいつのまにかその文章の中にある語句や文型(言い回し)
や文章構成(思考の進め方)が肉体化され、いつか� ��ある機会に、無意識的
に、あるいは意識的に、それらを日常の言語生活の中で使う(話す、書く)
ようになっていきます。
同一文章の音読練習を繰り返していると、日常生活の中で言語表現する
とき、それら語句、言い回し、文型、文章構成を知らずに使って話したり書
いたりする自分に気づくようになります。音読を繰り返しているうちに、理
解語彙(理解文型、理解文章構成)がいつのまにか表現語彙(表現文型、表
現文章構成)に転化し、こうして日常の言語生活の中へ、語彙(文型、言い
回し、文章構成)を増加させ、豊かな日本語力(認識思考力、表現力、知的
な営み)を身につけていく人間になっていきます。
次へつづく
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