2012年4月10日火曜日

小児におけるヒト免疫不全ウイルス感染症: 乳幼児および児童における感染症: メルクマニュアル18版 日本語版


(ヒト免疫不全ウイルスも参照 。)

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染症は,レトロウイルスHIV-1により(および頻度は低いが同類のレトロウイルスHIV-2により)引き起こされる。感染した場合,進行性の免疫低下,日和見感染,悪性腫瘍の発生を来し,末期では後天性免疫不全症候群(AIDS)となる。診断は,生後18カ月以上の小児ではウイルス抗体,生後18カ月未満の小児ではPCR法により行う。治療は抗レトロウイルス薬の併用による。

小児HIV感染症の全般的な自然歴および病態生理は成人のそれと同様であるが,感染様式,臨床症状,治療法については,異なることがしばしばである。HIV感染児には,独特の社会的統合の問題も存在する(乳幼児および児童における感染症: HIV感染児の社会的統合を参照 囲み解説 1: )。

囲み解説 1

疫学

米国において,HIVは小児においてもおそらくは成人の場合とほぼ同時期に出現していたと考えられるが,数年間は臨床的な認識には至らなかった。これまでに,小児と青少年において9300以上の症例が報告されているが,これは全症例の1%を占めるにすぎない。

米国の小児症例では,その90%以上が出生前または周産期の母から児への感染(垂直感染)である。残りの大部分(血友病またはその他の凝固異常の併発患者を含む)は,汚染血液または汚染血液製剤を投与された症例である。少数ではあるが性的虐待が原因の症例もある。5%弱の症例では感染源が明確ではない。垂直感染は現在,米国の思春期前の新規症例のほぼ全てを占めている。

全世界でみると,生存している小児HIV感染者は約250万人であり(世界の全症例数の8%),毎年約70万人の小児が新たに感染している(全新規感染者の16%)。蔓延が最も長くみられるサハラ以南のアフリカにおいては,一部の出生前クリニックは,妊娠可能年齢の全女性の25〜40%がHIV血清陽性と報告している。HIV感染症はインド,中国,東南アジア,ならびに東ヨーロッパおよびロシアの一部地域で急増している。世界全体で毎年約500,000人の小児がHIV感染症により死亡している。

感染: 妊娠中に抗レトロウイルス療法を受けなかったHIV陽性の母親から生まれた新生児の感染リスクは,13〜39%と推定される。妊娠期間中にセロコンバージョンした母親から産まれた新生児,および進行した疾患,末梢CD4+Tリンパ球数低値,前期破水(prolonged rup-ture of membranes),HIV p24抗原血症や定量的ウイルス培養,RNA濃度により証明されるウイルス濃度高値を伴う母親でリスクは最も高くなる。双胎児の経腟分娩では,最初に生まれた児は2番目に生まれた児よりリスクが高くなるが,この関係は発展途上国では当てはまらないことがある。

帝王切開は母から児への感染リスクを軽減できる。しかしながら,母親と新生児への抗レトロウイルス療法(ジドブジン[ZDV,AZT]を含む)の施行によっても,母子感染(MTCT)を有意に軽減できることは明らかである(乳幼児および児童における感染症: 予防を参照 )。ZDV単独療法によりMTCTは約8%まで減少し,現在の高活性抗レトロウイルス療法(HAART)レジメンにより,米国のMTCT率は2%未満となっている。

ヒト母乳の細胞分画と細胞を含まない分画の両方で,HIVが検出されている。授乳による感染は,年間で母乳栄養児100人当たり約6人に発生している。授乳を介した感染の総リスクの推定値は12〜14%であり,これは授乳期間の違いを反映している。授乳による感染は,血漿中ウイルス濃度高値の母親で最も高率となるようである。

青年期におけるHIV感染が,若年成人における症例数の多さの大きな要因となっている。青少年における感染経路は成人のそれと類似しており(ヒト免疫不全ウイルス: 伝染と疫学を参照 ),大半は無防備な性的接触であり,比較的頻度は低いが薬物注射もある。

分類: HIV感染がもたらす疾患は広いスペクトラムを形成するが,中でもAIDSが最も重症である。米国疾病予防管理センター(CDC)により策定された疫学的分類体系は,臨床的および免疫学的な機能低下の進行を定義したものである。13歳未満の小児では,臨床的カテゴリーN,A,B,およびC(特定の一般的日和見感染または悪性腫瘍の有無により定義される)で,それぞれ無症状の,軽症の,中等症の,および重症のHIVを示す(乳幼児および児童における感染症: 13歳未満のHIV感染児における臨床的分類*表 1: 参照)。同様に,免疫不全についても軽度,中等度,重度がそれぞれカテゴリー1,2,3で示されており,これらは年齢特異的なCD4+Tリンパ球数により定義されている(乳幼児および児童における感染症: 13歳未満のHIV感染児の免疫学的分類表 2: 参照)。したがって,ステージB3に分類された小児は,中等度に進行した臨床症状を有し,重度の免疫不全状態にあることになる。

表 2

13歳未満のHIV感染児の免疫学的分類

免疫学的カテゴリー

年齢特異的なCD4+Tリンパ球の数および総リンパ球数に占める割合

生後12カ月未満

1-5歳

6-12歳

個/μL

%

個/μL

%

個/μL

%


どのような体脂肪のパーセントが低すぎる

1:抑制の徴候が全くない

1500

25

1000

25

500

25

2:中等度の抑制の徴候がある

750–1499

15–24

500–999

15–24

200–499

15–24

3:重度の抑制

< 750

< 15

< 500

< 15

< 200

< 15

Adapted from Centers for Disease Control and Prevention.1994 Revised classification system for HIV infection in children less than 13 years of age; official authorized addenda: HIV infection codes and official guidelines for coding and reporting ICD-9-CM. MMWR 1994: 43 (No. RR-12), pp. 1-19.

症状と徴候

周産期に感染した乳児は通常,生後数カ月間は無症状である。発症年齢の中央値は約3歳であるが,適切な抗レトロウイルス(ARV)療法により,5年間以上無症状を維持し成人期までの生存を期待できるものもある。ARVが現れる以前の時代には,患児の約10〜15%が急速な疾患の進行により生後1年以内に発症し,18〜36カ月までに死亡していたが,これらの患児は子宮内で早期にHIV感染を獲得したものと考えられていた。しかしながら,大部分の患児は,おそらく分娩時またはその近辺で感染を獲得し,棒状進行はより緩徐である(ARV療法がルーチンに使用される以前でさえ5歳を超えて生存している)。

小児のHIV感染症に最も多くみられる症状には,全身リンパ節腫脹,肝腫大,脾腫大,発育不全,口腔カンジダ症,中枢神経疾患(進行することのある発達遅延を含む),リンパ性間質性肺炎,反復性菌血症,日和見感染,反復性の下痢,耳下腺炎,心筋症,肝炎,腎症,悪性腫瘍がある。

合併症: ニューモシスチスジロベジー(以前はニューモシスチス-カリニ)肺炎は,HIV感染児において最もよくみられる重篤な日和見感染症であり,死亡率が高い。ニューモシスチス肺炎は生後4〜6週という早い時期から発症することもあるが,多くは出生前または分娩時に感染した生後3〜6カ月の乳児に発生する。乳児および小児のニューモシスチス肺炎は,安静時の呼吸困難を伴う亜急性のびまん性肺炎,頻呼吸,酸素飽和度低下,乾性咳嗽,および発熱を来すのが特徴である(発症がより急性で激症となるHIV感染のない免疫不全状態の小児および成人とは対照的である)。

この他に多くみられる日和見感染症としては,カンジダ食道炎,播種性サイトメガロウイルス感染症,慢性または播種性の単純ヘルペスおよび水痘帯状疱疹ウイルス感染症などがあり,頻度の低いものとしては,ヒト結核菌マイコバクテリウム-アビウムの重複感染,クリプトスポリジウムまたはその他の病原体による慢性腸炎,播種性または中枢神経系のクリプトコッカスやトキソプラズマ原虫の感染症などがある。

HIVに感染した免疫不全小児の悪性腫瘍は比較的まれであるが,平滑筋肉腫と中枢神経のリンパ腫や非ホジキンB細胞リンパ腫(バーキット型)などの特定のリンパ腫は,免疫の保たれている小児におけるよりもはるかに高頻度で発生する。カポジ肉腫は,HIV感染児では極めてまれである。

診断

HIV特異的検査: 生後18カ月以上の小児においては,診断は成人と同様に血清抗体検査(酵素免疫測定法[EIA]および確認用のウェスタンブロット法)を用いて行われる。非常にまれにではあるが,HIV感染児童では著明な低ガンマグロブリン血症のためにHIV抗体を欠くことがある。

生後18カ月未満の小児では,母体からの移行抗体のためにEIAでは偽陽性が生じることから,診断はHIV-DNA検出PCRを用いて行われ,これにより出生時に症例の約30%,生後4〜6カ月までにほぼ100%で診断可能となる。HIVウイルス培養は,感度および特異度ともに許容範囲内であるが,技術的により厳しい上に危険であり,ほとんどの検査室でDNA検出PCRに切り替えられている。HIV-RNA検出PCR(治療効果をモニタリングするために使用される"ウイルス量"アッセイ)は,ARV療法が施行されていない乳児においては,DNA検出PCRと同等の感度を有すると考えられる。しかしながら,ARV療法を実施した場合の感度低下の可能性と,RNA低濃度で非特異的になる可能性があるため,HIV-RNA検出PCRは乳児の診断には推奨されない。変更を加えたp24抗原アッセイはHIV- DNA検出PCRや培養より感度が低いため,これらを施行できない場合にのみ使用するべきである。

初期DNA検出PCR検査を,生後2週間以内,生後約1カ月時,および4〜6カ月時に実施する。検査が陽性であれば,同一または別の検査(例,培養)により直ちに確認する。もし連続したDNA検出PCR検査が全て陰性であれば,95%以上の精度で小児は未感染であるとみなされる(AIDS指標疾患が存在しない場合)。経過観察の抗体検査(18カ月以降にEIAを1回,または,6〜18カ月の間にEIAを2回)を行い,HIV感染の除外とセロリバージョン(受動的に得られたHIV抗体の消失)の確認を行うべきである。抗体検査陽性でウイルス学的検査陰性の生後18未満の乳児にAIDS指標疾患(カテゴリーC─乳幼児および児童における感染症: 13歳未満のHIV感染児における臨床的分類*表 1: 参照)が発症した場合は,HIV感染症と診断される。


ここで、iは、ペンシルバニア州の馬のカイロプラクターを見つけることができます

新たに使用可能となったHIV抗体用迅速検査は,数分から数時間で結果の出るEIAアッセイから派生したものである。これらは,口内分泌物,全血,または血清を用いたポイントオブケア検査として実施できる。米国においては,おそらくこれらの検査の有用性は陣痛室および分娩室においてHIV血清状態不明の女性を検査する際に最もよく発揮され,これによりカウンセリング,MTCT予防のためのARV療法の開始,および児の検査を出産時の来院の間に手配することが可能となる。同様の利点は,他の突発的な治療の場(例,救急部,性感染症クリニック)や発展途上国においても生じる。迅速アッセイには,ウェスタンブロット検査などの確定検査が必要である。もし予想されるHIV感染率が低いならば,特異的な迅速アッセイですら大部分が偽陽 性となろう(ベイズの定理[臨床的意思決定: ベイズの定理を参照 ]でいう陽性適中率低値)。しかしながら,予想されるHIVの可能性(または血清陽性率)が高い場合は,陽性適中率は高くなる。

児のHIV検査に先立ち,母親または第1養育者(および十分年長であれば児本人)への,考えられる心理社会的リスクと検査がもたらす利益についてのカウンセリングを実施すべきである。州,地方,および病院の法および規則に従い,書面または口頭による同意を得た上で,患者カルテに記録する。検査が医学的に適応とされる場合は,カウンセリングおよび同意が必要であるという理由で検査が躊躇されるようなことがあってはならず,患者または保護者による同意の拒否は医師の職業的および法的責任を軽減するものではなく,ときには別の手段(例,裁判所命令)によって検査の権限を得なければならないこともある。検査結果については,家族,第1養育者,および児本人(十分年長であれば)を交えて話し合われるべき� �あり,小児がHIV陽性の場合には,適切なカウンセリングとその後の経過観察のケアを提供しなければならない。全例において,機密保持が極めて重要である。

AIDS基準を満たす小児および青少年については,適切な保健所へ報告しなければならない。多数の州では,HIV感染症(AIDS発症前)もまた報告しなければならない。

その他の検査: 小児感染例では,疾患の程度と予後を評価するのに有用な,ヘルパーT細胞であるCD4+リンパ球およびサプレッサーT細胞であるCD8+リンパ球の数と,血漿中ウイルスRNA濃度(ウイルス量)を測定する必要がある。CD4+数は,初期には正常値(例,乳幼児および児童における感染症: 13歳未満のHIV感染児の免疫学的分類表 2: におけるカテゴリー1の年齢特異的カットオフ値を超える)を示すこともあるが,最終的には低下する。CD8+数は,初期に増加し感染後期まで減少しないのが通常である。細胞集団におけるこれらの変化は,HIV感染症に特徴的な(他の感染症で生じることもあるが)CD4+:CD8+細胞比の低下をもたらす。生後12カ月未満の無治療患児の典型例では,血漿中ウイルス濃度が非常に高くなる(平均して,約200,000RNAコピー/mL)。生後24カ月までには,この無治療患児におけるウイルス濃度は(平均約40,000RNAコピー/mLにまで)減少する。小児ではHIV-RNA濃度の個人差が大きいため,この数値による病状や死亡率の予測の精度は成人の場合よりも低くなるが,血漿中ウイルス濃度測定とCD4+数の組み合わせは,どちらか一方のみ のマーカー測定よりも,正確な予後情報をもたらす。総リンパ球数および血清アルブミン濃度などのより低コストの代替マーカーからも,小児のAIDS死亡率を予測でき,これらは発展途上国において有用であろう。

ルーチンには測定されないが,血清中免疫グロブリン濃度,特にIgGとIgAがしばしば著明な上昇を見せる(但し,汎低ガンマグロブリン血症を偶然発症している場合もある)。患者は,皮膚試験の抗原に対して免疫不応答のことがある。

予後

適切なHAARTレジメンにより,周産期感染の小児の大部分が5歳以降まで良好な状態で生存している。先進国では,無治療の場合約10〜15%が4歳になる前に死亡しており,これらの大半は生後18カ月以前の死亡である。発展途上国では,小児のAIDS死亡率は生後数年以内が非常に高くなっている。

日和見感染症,特にニューモシスチス肺炎,進行性神経疾患および重度の消耗が予後不良と関連しており,ニューモシスチス肺炎の場合,死亡率は治療により5〜40%となり,無治療の場合ほぼ100%となる。早期に(すなわち,生後7日までに)ウイルスが検出される場合,または生後1年以内に症状が発現する場合でも,予後は不良である。しかしながら,HAARTおよび抗菌薬によるニューモシスチス-ジロベジー予防法(乳幼児および児童における感染症: 日和見感染症の予防を参照 )の出現以来,日和見感染症と悪性腫瘍の発生率は,治療アドヒアランス(順守)が良好な小児においては劇的に低下している。青年期にHIVに感染した症例では,病状の進行は遅く,成人の場合と類似する。

治療

米国で入手可能なARV薬は,多剤配合製剤を含めて二十数種あり(乳幼児および児童における感染症: 小児に対する抗レトロウイルス薬の用量および用法*表 3: 参照),それら各々で副作用および他のARV薬,あるいは一般に使用される抗生物質,抗痙攣薬,鎮静薬との薬物相互作用を起こす可能性がある。新規のARV薬,免疫調節薬,ワクチンが現在評価されている。

標準的治療法はHAARTを用いたものであるが,この方法では多剤併用によりウイルス抑制を最大限に,薬剤耐性株の選択を最小限にする。最も一般的なHAARTでは,"基本骨格"となる2つのヌクレオシドアナログ逆転写酵素阻害薬(ZDV+ジダノシン,ZDV+ラミブジン,またはスタブジン+ラミブジン)を,プロテアーゼ阻害薬(ネルフィナビル,ロピナビル/リトナビルまたはその他)または非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害薬(ネビラピンまたはエファビレンツ)のどちらかと併用して投与する。その他の組み合わせ(例,ZDV,ラミブジン,アバカビル;デュアルプロテアーゼ阻害薬レジメン;テノフォビルを含むレジメン)も使用されるが,第1選択レジメンとしての使用を支持するだけの十分なデータが揃っていない。単剤療法やデュアル� ��クレオシド系逆転写酵素阻害薬療法単独(HIVに暴露した乳児のZDV予防的化学療法を除く)は推奨されない。治療戦略に関する専門家の意見は急速に変化するため,専門医との相談が強く勧められる。継続的に更新されている治療ガイドラインがいくつかのウェブサイト上で入手できるが,それらのうちで最も有用なのは,www.aidsinfo.nih.gov,www.hivguidelines.org,およびwww.unaids.orgである。


"何ピルの種類は、これは"

治療は,家族および患児が複雑となりうる投薬レジメンを順守できる場合にのみ成功する。ノンアドヒアランス(順守不良)は,HIVのコントロールを失敗させるだけでなく,薬剤耐性のHIV株を選択し,将来の治療選択肢を減少させてしまう。アドヒアランスへの障壁については,治療開始前に対処しておくべきである。この障壁には以下のようなものがある;錠剤や懸濁液の服用しやすさおよび味;同時に行う治療との薬物相互作用;食物と一緒にまたは絶食状態で服薬する必要性などの薬物動態学的因子;小児は服薬に関しては他者に依存するという事実(さらにHIV感染者の親は自分の薬剤を覚えておくことが困難な場合がある);青少年については,自分の感染に対する否定や恐れ,医療不信,家族からの支援の欠如。

適応: ARV療法の開始は,ウイルス学的,免疫学的,および臨床的基準に依存し,それぞれ専門家によって意見が異なっている。目標は,HIV複製の抑制(血漿中HIV-RNA検出PCRによるウイルス量で判定したとき)と,年齢相応のCD4+数および比率の維持または達成である。

ARV療法は,血漿中HIV-RNAウイルス量にかかわらず,臨床的または免疫学的に重度に進行した(臨床的カテゴリーCまたは免疫学的カテゴリー3―乳幼児および児童における感染症: 13歳未満のHIV感染児における臨床的分類*表 1: および乳幼児および児童における感染症: 13歳未満のHIV感染児の免疫学的分類表 2: 参照)生後12カ月以上の全ての小児に推奨される。本療法は,軽度〜中等度の症状を有する生後12カ月以上の小児(臨床的カテゴリーAまたはB,免疫学的カテゴリー2)および血漿中HIV-RNAウイルス量が100,000 コピー/mL以上の小児でも考慮される。専門家によっては,さらに低い閾値を使用しているものもいる(例,50,000HIV-RNAコピー/mL以上,またはCD4+比率が15〜20%)。臨床的疾患および免疫抑制を証明できない(カテゴリーN1)小児は,血漿中HIV-RNAが50,000〜100,000コピー/mL以下ならば,ARV療法を行わずに厳重な経過観察を行ってもよい。

本療法は,臨床症状または免疫抑制を伴う(臨床的カテゴリーA,B,Cまたは免疫学的カテゴリー2もしくは3)生後12カ月未満の小児全てに,血漿中HIV-RNAウイルス量にかかわらず行うべきである。HIV感染症は生後1年で急速に進行する傾向があるため,多くの専門医が無症候性の(カテゴリーN1)生後12カ月未満の乳児に本療法を実施している。

モニタリング: 薬物毒性や治療の失敗を確認するために,臨床所見と検査所見のモニタリングが重要となる。身体診察およびCBC,HIV-RNAウイルス量,リンパ球サブセットのモニタリングを,3〜4カ月毎に行うべきであり,また肝酵素,脂質プロファイル,アミラーゼおよびリパーゼ値などの血清化学検査値を,最低でも1年に1〜2回モニタリングすべきである。

症候性HIV感染におけるワクチン接種: 一般に,AIDSの小児または免疫抑制を示唆する進行したHIV感染症の症状を伴う小児には,生ウイルス(例,経口ポリオウイルス,水痘)ワクチンおよび生菌(例,BCG)ワクチンを接種すべきではない。但し,重度の免疫不全状態ではない(すなわち,カテゴリー3ではない)患児における麻疹-ムンプス-風疹ワクチンは例外であり,免疫反応の見込みを高めるため,可能であれば生後12カ月時,すなわち免疫系が低下する前に接種すべきである。可及的速やかなセロコンバージョン誘導のため,2回目の接種は4週経過後すぐに実施してよい。大流行時のように,麻疹暴露の危険性が高まっている場合には,生後6〜9カ月などの早い時期にワクチンを接種しておくべきである。

ジフテリアおよび破傷風トキソイドと無細胞性百日咳ワクチンの組み合わせ(DtaP),B型肝炎,インフルエンザ菌b型と肺炎球菌の結合型,および不活化ポリオウイルス(IPV)などの,その他のワクチンについては,通常の免疫化スケジュールに従って接種する(正常な乳幼児や小児の治療へのアプローチ: 推奨される小児期および青少年期の予防接種スケジュール。を参照 図 3: )。2歳時の肺炎球菌多糖体ワクチン,生後6カ月から開始する毎年の不活化インフルエンザワクチンもまた推奨されている。

症候性のHIV感染児は,通常,ワクチンに対する免疫学的反応が乏しいため,麻疹や破傷風のようにワクチンで予防可能な疾患に暴露したときには,ワクチン接種歴にかかわらず感受性が高いとみなすべきである。したがって,適応となる場合には,そうした小児は免疫グロブリンによる受動免疫を受けるべきである。免疫グロブリンは,麻疹に暴露した,免疫のない全ての家族にも投与されるべきである。

無症候性HIV感染症におけるワクチン接種: このような小児には,DtaP,IPV,インフルエンザ菌b型と肺炎球菌の結合型,B型肝炎,および麻疹-ムンプス-風疹のワクチンを,通常の免疫化スケジュールに従って接種すべきである。経口ポリオウイルスワクチン(OPV)はこのような患児に副作用なく投与されているが,OPV中の生ポリオウイルスが排泄され,免疫抑制状態にある接触者に伝播する可能性があるため,ワクチンウイルスによる感染で麻痺型ポリオが発現する危険性が高まる(IPVのみが使用されている米国のような地域では,もはや考慮する必要はない)。

水痘ワクチンは,早期のHIV感染症患児(カテゴリーN1またはA1)においては安全であり,推奨される。2歳以上のHIV感染児では侵襲的肺炎球菌感染のリスクが高くなるため,このような患児には(乳児期の一連の肺炎球菌結合型ワクチン接種に加えて)肺炎球菌多糖体ワクチンの接種を2歳時に行うべきである。3〜5年後に1回の再接種が推奨されている。不活化インフルエンザワクチン接種は,生後6カ月以上のHIV感染児に毎年実施すべきである。

米国や結核有病率の低い地域においては,BCGワクチンは推奨されない。しかしながら,結核有病率の高い発展途上国においては,母親のHIV感染にかかわらず,無症候であれば出生時に全ての新生児にBCGを投与することが,WHOによって推奨されている。重度の免疫不全状態にあるAIDS患者において,散在性のBCG感染を認めた症例がいくつか報告されている。

麻疹,破傷風,および水痘の暴露後の受動免疫は適切である。

症候性HIV感染症の親と生活をともにする血清陰性の小児に対するワクチン接種: このような小児は,血清陽性の小児と同様に,OPVではなくIPVを受けるべきである。麻疹-ムンプス-風疹ワクチンは,ワクチンウイルスは伝播されないため接種して構わない。症候性HIV感染症の患児へのインフルエンザ感染の危険性を低下させるために,家庭内の接触者に対する毎年のインフルエンザワクチン(不活化または生)接種が適応となる。


免疫不全宿主に重症疾患を引き起こすことのある野生型水痘帯状疱疹ウイルスの感染を予防するため,HIV感染児の血清陰性の兄弟および感受性のある成人養育者への水痘ワクチン接種が強く推奨されるが,まれに水痘ウイルスワクチンの人から人への伝播が発生することがある。

予防

暴露後の予防については,ヒト免疫不全ウイルス: 暴露後予防を参照 のこと。

周産期感染の予防: 出生前の適切なARV療法は,母体の健康を最善の状態とし,MTCTを予防し,子宮内の薬物毒性を最小限に抑えることを目指すものである。ARV薬が利用可能でHIV診断検査の基盤が存在している米国および他の国々では, ARV薬による治療が全てのHIV感染妊婦に対する標準である(ヒト免疫不全ウイルス: 伝播の予防も参照 )。HAARTの成人基準に合致せず,先にARV薬を服用していないHIV感染女性には,ZDVを妊娠14〜34週から300mg,1日2回,経口で開始し,妊娠期間を通じて継続し,分娩中には最初の1時間は2mg/kg,その後は1mg/kg/時間で分娩終了まで静脈内投与する。新生児にはZDVを2mg/kg,経口,1日4回で,生後6週まで投与する。臨床状態または免疫状態がHAARTの治療基準に合致しない女性であっても,ウイルス量が1000コピー/mL以上の場合はHAART開始が推奨される。産後直後に,母親の治療を継続するか否か決定できる。臨床状態または免疫状態が治療基準(ヒト免疫不全ウイルス: 予後を参照 )に合致する女性には,多剤併用レジメン(ZDVを含むものが望ましい)を投与する。

妊娠に対しHAARTレジメンは禁忌ではないが,妊婦とその医療担当者は,これらの治療法に考えられる利益および危険性,ならびに信頼性の高い安全性データが欠如していることに関して,話し合いの場をもつべきである。ZDV単剤療法によりMTCTは25%から8%へ低下するが,多くのARV併用療法もまた有効である。現在のHAARTレジメンにより,米国でのMTCT率は2%未満となっている。このように,ARV療法レジメンを受けることの最終決定は妊婦に託されるが,本療法の立証済みの利益が胎児毒性という理論上のリスクを上回るようであることは強調されるべきである。

専門家の大半は,既にARV療法を受けているHIV感染女性が妊娠した場合には,たとえ第1トライメスターであっても治療を継続すべきと考えているが,代わりの方法は,全ての治療を第2トライメスターの初めまで中止しその後再開することである。

陣痛が起きているが事前療法を受けていないHIV感染妊婦からのMTCTを減少させるために(あるいは無治療のHIV感染女性から生まれる新生児のため),臨床ではARV併用療法と帝王切開の両方が使用されている。陣痛の発現した妊婦の迅速HIV検査により,HIV血清状態の記録がなくても,こうした処置の即時開始が可能となる。このような状況では,小児または母体のHIV感染に関する専門医に直ちに相談すべきである。

HIV感染女性の 母乳栄養(または母乳バンクへの提供)は,安全で低価格な代替乳が容易に入手できる国においては,強く阻止されるべきである。しかしながら,感染症や栄養失調が幼児期死亡の大きな原因となっていて,かつ乳児用調製乳を低価格で入手できない国々においては,呼吸器および消化管感染による死亡リスクを低下させる母乳栄養のメリットが,HIV感染のリスクを相殺する場合がある。このような発展途上国において,WHOは母親が授乳を続けるよう推奨している。

青少年感染の予防: 青少年は特にHIV感染のリスクが高いため,教育を受け,HIV検査を受け,血清状態を知っておくべきである。教育には,感染についての情報,感染による影響,リスクの高い行為の自制や,性的に活発である青少年の場合には安全な性行為(コンドームの正しい一貫した使用)などの予防法を含めるべきである。

努力は,HIV感染リスクの高い青少年に標的を定めてなされるべきである。検査や血清状態に関する情報の公開には,インフォームド・コンセントが必要である。患者の同意なくHIV状態を性的パートナーに告知するか否かの決断は,パートナーにリスクがある可能性,パートナーが危険を疑い予防措置を取る正当な理由があるか否か,このような情報を保留または告知する法的要件があるか否か,およびこのような告知が将来の関係に影響を及ぼす可能性に基づくべきである。

日和見感染症の予防: ニューモシスチス肺炎の予防が,重大な免疫不全(すなわち,免疫学的カテゴリー3)を伴うHIV感染児に適応とされている。予防的化学療法は一般に生涯にわたり継続されるが,免疫再構築(すなわち,数カ月間の免疫カテゴリー1または2)を認めるHAART施行中の年長の青少年および小児は,カテゴリー1または2に留まっている限りは予防を中止できる場合がある。現時点では,ニューモシスチス肺炎発症の既往のある患者には,CD4+数にかかわらず終生の予防的化学療法が推奨されている。 ニューモシスチスの予防は,HIV感染女性から生まれたHIV暴露児全てに,生後4〜6週時に開始するよう推奨されている。連続したHIV検出PCRまたは培養によりHIVが十分除外されている場合は,予防の中止が可能である。最もよく用いられる薬物はトリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP-SMX)であり,75mg TMP/375mg SMX/m2,経口,1日2回で,1週間に連続3日間(例,月曜日-火曜日-水曜日)投与するが,これに代わるスケジュールとしては,総用量は同じで,1日1回,1週間に3日,または1日2回,1週間を通じて毎日もしくは隔日,などがある。5歳以上でTMP-SMXに耐えられない患児には,ペンタミジンのエアロゾル(300mg,特別に設計された吸入器にて)を1カ月に1回投与してもよい。静注用ペンタミジンもまた使用されているが,効果が弱く,より毒性が強い可能性があるようである。他に代わりうるものとして,特に5歳未満の小児に対して,ダプソンの連日経口投与(2mg/kg,最大100mg)がある。有用と思われる他の薬剤には,ピリメタミンのダプソンとの併用,ピリメタミン-スルファドキシン,経口アトバコンなどがある。しかしながら,これらの薬 剤の経験は非常に限られており,推奨レジメンに耐容性を示さない場合または施行できない場合にのみ,これらを考慮するべきである。

6歳以上でCD4+数が50/μL未満の小児(または2〜6歳でCD4+ 数が75/μL未満,1〜2歳で500/μL未満,1歳未満で750/μL未満の小児)におけるマイコバクテリウム-アビウム複合感染の予防については,アジスロマイシン週1回投与またはクラリスロマイシン連日投与が最もよく用いられており,リファブチン連日投与が代替手段となる。サイトメガロウイルス,真菌疾患およびトキソプラズマ脳炎といった他の日和見感染に対する予防法の利用に関しては,データは限られている。

最終改訂月 2005年11月

最終更新月 2005年11月



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