RDIは何ですか
お父さんの[そらまめ式]自閉症療育: RDI「対人関係発達指導法」(ブックレビュー)(3)
RDI「対人関係発達指導法」―対人関係のパズルを解く発達支援プログラム
著:スティーブン・E. ガットステイン
クリエイツかもがわ
当ブログでも前例のない、3回(+プレレビュー1回)というほとんどシリーズ記事のような長大なレビューになっていますが、今回で終わりです。
前回までのレビューで、RDIの理論的な弱さ、実践面での可能性と独断によるRDI理論の「読み替え」について書いてきました。
最後に、私がこのRDIを切り捨てられない最大の理由の1つである、彼らの主張する「効果の高さ」について考え、さらにこのRDIによる療育の対象となるお子さんについて考えたいと思います。
もし、私がこのRDI本を何の前提知識もなく読んでいたとしたら、最初の発達理論の強引さと「内面の勝手解釈」の多さに辟易として、もっと簡単に「この療育法はダメ」という判断を下していただろうと思います。
私がそうせずに� ��RDIをABAとTEACCHの枠組みで再構成するといったことまで試みたりしている最大の理由の1つは、彼らが主張する、非常に高い成果があるからです。
アメリカのRDIの公式サイト( http://www.rdiconnect.com/ )から閲覧可能な「2-day Introductory Workshop Presentation」という資料によると、RDIを約1年半受けた子どもは、ADOS(自閉症診断観察尺度)による診断により15人中13人が自閉症の症状が軽減し、中でも11人は「自閉症ではない」と診断されたとされています。(RDIを受けなかった子どもは14人全員が症状の軽減なし)
同じ資料にはもう1つ調査が示されていますが、こちらもほぼ同様の結果です。
これ、額面どおりに受け止めれば極めて素晴らしい成果ですが、じっくり読み込んでいるうちに、この結果には多少の「トリック」があることに気が付きました。
その最大の要因は、使われている尺度がADOSである、ということです。
ADOSというのは、重い自閉症の娘を持つ私はあまり聞きなれない名前だったのですが、調べてみるとアスペルガー症候群のお子さんに対する、主に対人スキルを検査する診断基準のようですね。
そして、そのADOSがチェックする診断項目というのをRDIサイトの資料からみてみると・・・
なんだ、RDIでトレーニングしている項目とまるっきり同じじゃないですか。
つまり、こういうことです。
例えば、AさんとBさんとCさんが、TOEICの試験を受けるために試験勉強をするとします。
Aさんは、手元に英検の参考書しかなかったので、仕方なく英検の勉強をしました。
Bさんは、TOEICに特化したセミナーを受講して試験対策をしました。
そしてCさんは、裏の手段を使って試験問題(問題のみ、答えはなし)を入手して、それを勉強しました。(本当にこんなことがあるわけではありませんよ、念のため)
では、試験勉強前のこの3人の英語の基礎力が同じだったとして、実際のTOEICのスコアはどうなるでしょうか?
言うまでもありませんが、Cさんがダントツで、あとはBさん、Aさんの順になるでしょう。中でもCさんのスコアは、恐らく「ネイティブ並」といったものになるでしょう。
サーキットトレーニングは何ですか?RDIの成果をADOSでチェックする、というやり方は、どうもこの例えの「Cさん」に近いことをやっているように思えてならないのです。
言うまでもありませんが、ADOSが何を検査するかは事前にはっきり分かっている、つまり「試験問題」は最初から手に入っているわけです。
だとすれば、その検査項目に特化したトレーニングを子どもに集中的に受けさせれば、トレーニングの前後でその検査による評価が大幅に改善するのはむしろ当然でしょう。
もちろん私は、RDIが単にADOSのスコアを上げるための試験勉強だ、と言っているわけではありません。それに、ADOSがチェックする項目が、まさにアスペルガー症候群のお子さんが困難を感じ、克服すべき問題なのだとしたら、その問題に特化したトレーニングが結果を出しているという事実を素直に評価していいと思います。
ただ、アスペルガー症候群の子どもたちがRDIの集中トレーニングによってADOSのスコアを上げた、というのは、それが事実であったとしても、RDIがあらゆる自閉症児の療育全般に絶大な効果を上げる、ということとは直結しない と思われます。
ここで先ほどのTOEICの例に、Dさんを登場させましょう。
DさんもCさん同様、TOEICの問題を入手して勉強する機会があったとします。ところがDさんはCさんと違い、英語がまったく分かりませんでした。
この場合、まずDさんは「試験問題」を勉強するのに、とんでもない労力が必要になるでしょう。問題文として書いてあることがさっぱり分からないわけですから、答えを導く作業は遅々としてまったく進まないでしょう。
そして、結果も惨憺たるものになると思われます。
これは、そもそもDさんには「TOEICの試験を受ける」ための大前提である「英語が最低限分かっている」というスキルが身についていないために起こった問題です。
恐らく、「RDIを低機能自閉症児に適用する」というのは、このDさんのような状況を招くのではないか、と思われます。
低機能自閉症児の場合、RDIがある意味「あって当たり前」と考えている、モノへのかかわりや環境の適切な知覚、簡単なことばの指示が理解できること、「大きい・小さい」「近い・遠い」といった概念が理解できていること、他人に対し「要求のためのかかわり」ができること、といった発達スキルが、多くの場合まだ十分に発達していません。
そんな子どもに、RDIの「社会的強化子による非言語コミュニケーションのトレーニング」を行なったとしても、極めて効率が悪いでしょう。また、上記のような基礎的な発達スキルを前提にできないとなると、そもそもRDIが提供できる活動のレパートリーも極めて限られたものになってしまうでしょう。
RDI側の主張としては、健常児は生後すぐから非言語コミュニケーションを始め るのだから、低機能自閉症児であってもそういった低いレベルの非言語コミュニケーションはトレーニングできる、というものがあると思いますが、
1) RDIが想定する健常児の発達モデルの信憑性にそもそも疑問がある。
2) 恐らく、(重い)自閉症児は健常児とは異なる発達過程をたどっている。
という2点から、この主張は受け入れられません。(後者の意見については、近日中に記事として書く予定です。)
ですから、低機能自閉症児の療育としては、RDI以外の療育法にまず目を向け、先に列記したような常識的な発達課題の達成にまずは焦点を絞るべきでしょう。
もちろん、そういったお子さんにとっても、アイコンタクトの時間を伸ばすことや、簡単な協調作業を日常の遊びに取り入れることは極めて重要ですから、本書に掲載されたアイデアをうまく活用することには意味があると思います。
ただ一般論としては、RDIは明確に、高機能自閉症・アスペルガー症候群のお子さんに向いた療育法だと思います。
※その他のブックレビューはこちら。
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