キリスト教プロテスタント系のアーミッシュもその一つだろう。欧州の宗教改革で生まれた再洗礼派「スイス兄弟団」メノナイト派の分派で、迫害を恐れて米国に渡った。信仰の純粋性を守るため社会と一線を画し、電気を使わず、馬車で移動し、農業主体の生活を送っている。

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　昨年４月、ペンシルベニア州ランカスターにあるアーミッシュの村を訪ねた。０６年１０月、村の学校に部外者の男が押し入り、少女５人を射殺する事件があった。

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　幹線道路からわき道に入ると、そこは「アーミッシュの世界」だった。あごひげをたくわえた黒い帽子の男性が畑を耕し、その脇を黒いスカートに白い帽子の女性が、ぽっかぽっかと馬車で走る。馬車の後ろには、車のウインカーのようなライト（電池式）が両側についていて、運転者が右折、左折のサインを出している。馬車で車道を走るために、「社会のルール」との折り合いをつけようというアーミッシュならではの「知恵」だ。

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　偶像崇拝を拒否し、写真撮影を禁じているので、取材に積極的には応じない。だから事件直後、アーミッシュの親たちは、地元の住民にメディアへの対応を依頼した。取材を拒否せず、生活を守るための知恵だ。「犯人を許す」という親たちの言葉に世界が驚き、見舞金が集まると、使途を公表して透明性を図った。

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　アーミッシュは戦時、良心的兵役拒否を貫いた。子供を普通の学校に通わせず「虐待」と批判されたが、裁判で独自の教育権を獲得した。社会とのあつれきのなかで、生きるために知恵を絞ってきた歴史がある。アーミッシュの研究で知られるドナルド・クレイビル氏は著書「アーミッシュ文化の謎」で、「『抵抗』と『折り合い』の戦略で、独自性を守ってきた」と分析している。

　事件で孫娘２人を亡くした祖母のミラーさんを訪ねた。取材を申し込むと「神を信じていますか？」と聞く。「信仰はありません」と答えると驚いた顔をしたが、それでもぽつぽつ話してくれた。事件をきっかけに、犯人の妻と連絡を取り、励ましあっているという。折り合いを探る、アーミッシュのまなざしを感じた。（北米総局）

毎日新聞　2008年5月19日　東京夕刊

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